江戸の暮らしが息づく技と美

上田銀器工芸

東京銀器 上田銀器工芸



名家が認めた日本の銀食器メーカーの草分け、上田銀器工芸
 葛飾の堀切菖蒲園駅から、ほど近いところに銀食器メーカーの老舗、上田銀器工芸株式会社はある。この社名を知っている人は、多くはないかもしれない。販路が限られるこの業界では、製品に冠されるブランド名は東京や大阪にある一流百貨店等になることが多いからだ。
 しかし、ここ上田銀器は、日本の銀食器メーカーの中で、右に出るものはないといわれるほどの製造技術を持つメーカーである。
 その実力を最初に認めてくれたのは、皇后美智子様の生家である正田家であったという。後にその関係で、御成婚の際、白樺のお印入り銀食器を製作することになる。これにより、その品質の高さが宮内庁にも認められ、海外の要人を招いて開かれる宮中晩餐会用のテーブルウェアの製作を手がけることになった。今でもなお、修理を含め、様々な依頼を宮内庁より直接に受けている。雅子様の浜茄子のお印入銀食器も同社の作であり、まさに日本のロイヤルブランドといっても過言ではないが、同社はこれまで、あまりそのことを表に出すことはしなかった。特別な物を作っているわけではないからというのがその理由だ。

ヨーロッパのカトラリー製造技術と日本の伝統技法を融合させた上田銀器
 創業は大正15年、先代の上田新次郎氏が横浜で修業した後、台東区に工場を開き、戦後、葛飾のこの地に落ち着いたという。でも、最初から質の良い製品を作れたわけではなかった。
 「当時、スプーン等の柄と先端部分は蝋付けして作っていたんですが、その技術が低く、海外に比べて強度が出ないんです。それで注文をくれた進駐軍から不良品だと突き返されちゃいましてね」と現在の同社代表、上田耕造さんは苦笑いをしながら振り返る。学校を出て、父親の元で修行していた時のエピソードだ。そもそもがナイフやフォークなどの銀食器は日本の食文化にはないから、要求されているレベルがわからなかった。それでも負けん気の強かった上田さんは、日本の伝統技法である鍛金法を使って、徹底的に叩いて分子構造を安定させ、絶対に曲がらないフォークやスプーンを作り上げたという。しかし、それでは日に数本程度しか製作できず、生産効率が低すぎた。
 そこで、鍛金法を生かすために、立体成型を取り入れることを思いつき、お金をためてプレス機を買った。それが仕事を楽にしようとする態度に見えたらしく、父親に金槌を持って追いかけられたという。
 「決して、楽をしようと思ったんじゃなくてね。ただ、ヨーロッパに負けないものを作りたかった。それだけなんです」
 その真剣な思いは、やがて父親にも伝わる。途方もない労力をかけて、金型まで作成するようになった息子の姿に嘘はないことを感じたのだろう。成型後に徹底的に鍛金し、磨き上げるという上田銀器の一つのスタイルがここに出来上がった。

カトラリ・梅
 ▲梅をモチーフにしたテーブルウェアー類。

テーブルウェア・梅
 ▲これほど精密な透かし彫りは、世界でも難しいといわれる。

上田銀器工芸代表の上田氏
 ▲鍛金法を実演中の上田氏。製作物はバターナイフ。

ベビースプーン
 ▲銀の抗菌効果が幼児に安心と、大人気のベビースプーン。
 
伝統を守るということは、伝統にとらわれないこと
下記にあるように、上田さんの伝統工芸士としての経歴は輝かしい。しかし、伝統工芸士という立場にとらわれてはいないという。
 「伝統は大切。しかし、我々職人は良い物をいつだって作りたい。もし、科学が進歩し、伝統よりも優れた技術が生まれたら、私は躊躇なくそれを取り入れます。そうやって伝統工芸というのは続いてきたんだと思うから」
 そうして彼が取り入れてきた技術はたくさんある。その一例がナイフの蝋付けだ。銀のテーブルナイフは、刃と柄の部分の蝋付けがどうしても必要だった。上田氏はナイフの蝋付けに、鉛などの有害な物質を使うのが嫌で、それを使わずに強度の高い蝋付けができる方法はないかと模索した。長い年月をかけて、たどり着いたのが大手自動車メーカーの製造ラインに据え付けられていた融点の違う素材を瞬間的に圧着する機械だったという。すると、驚いたことにその機械を製作したのは、同じ葛飾区にある町工場だった。
 「灯台元暗し。ずいぶん遠回りしちゃった」と上田さんは苦笑いする。
 「銀は抗菌作用もあって、体にとても良い物質なんです。私が作るのは、銀食器。口に入れる物だから、赤ちゃんにだって安心な製品だっていえるようにしたかったんです」

弾くと響く、リーンという透明感のある音こそ、質の高いの銀製品であることの証。
 上田銀器のテーブルウェアは、スプーンであれ、フォークであれ、大の男が曲げようとしても簡単には曲がらない。入念に鍛金されている上に、銀の量が多いので厚みがあるのだ。
 「今は、なんとか製品に少し自信がもてるようになりましたよ」そういうと、上田さんは自社製のテーブルフォークを指で弾いた。リーンという鈴のような音が響く。次に誰もが知っているヨーロッパの有名ブランドのフォークを弾いてみてもボフッという音しかしない。
 「別に音がすべてじゃないけどね。でも、もうヨーロッパでいいなあと思うのは、ジョージ・ジェンセンぐらいですかね」と寂しそうにつぶやいた。銀食器の本場のヨーロッパでは、良い銀食器というのはどんどん作りにくい状況になっているという。
 だから、自分がこうして今、作りたい銀食器を日本で作れるのは幸せだと上田さんはいう。
 「ありがたいことに、どこからか私たちのことを聞きつけて、注文をくれる方が日本にはいます。そういうお客様がいてくれるので、良い物を作り続けられる」 上田銀器の製品を手にすると、なんとなく自分が誇らしく思えてくる。決して高級品だからというわけではなく、良い品からは、それだけの作り手の思いが伝わってくるのだと思う。今、そういう製品が日本にどれだけあるだろうか。まぎれもなく上田銀器の製品は、そういう品である。


上田銀器工芸 上田耕造氏
【上田耕造氏】
平成2年 通商産業大臣指定・国の伝統工芸士に認定
平成5年 第一回全日本金銀創作展にて銀食器で関東通商産業局長賞を受賞
平成6年 東京都伝統工芸指定・伝統工芸士に認定
平成10年 東京都優秀技能者として、知事より優秀技能賞を授与
平成12年 黄綬褒章を授章
 

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